コロナ禍が東京23区の賃貸住宅市場へ及ぼした影響をCRIXで確認(後篇)

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不動産市場アナリスト : 藤井 和之
日本情報クリエイト株式会社 データ戦略室執行役員 : 林 宏

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前篇で解説したように、コロナ禍では宿泊業、飲食業、生活関連サービス業・娯楽業等の非正規従業員が大きな影響を受けました。国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査※1」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は正社員(正職員)が508万円、正社員(正職員)以外の収入は198万円です。
このため、賃料の低い賃貸住宅への影響がより大きく(テナント退去が多い)、賃料の高い賃貸住宅への影響は軽微(テナント退去が少ない)であったと考えられます。

今回はこれを踏まえて、特に影響を受けた可能性の高い東京23区の単身者向け(30㎡以下)の賃貸住宅のCRIXの推移を確認します。

 

2022年8月以降、アパート、マンション共に空室率は改善傾向

図1に東京23区30㎡以下賃貸住宅の空室率推移、図2に平均賃料の推移を示します。
それぞれ青線がアパート、オレンジ線がマンションです。

2020年1月~3月までは、アパート、マンション共に空室率は横ばいで推移していましたが、第1回緊急事態宣言が発出された2020年4月以降は、アパート、マンション共に空室率は急激に悪化しています。

アパートの空室率のピークは2021年8月で、9月~10月にかけて急激に改善し、その後横ばいで推移しています。
2022年8月以降に再び改善傾向となりました。コロナ禍が収束しておらず、需給環境が回復していないのにもかかわらず、アパートの空室率が改善したのは、オーナーが管理会社や不動産会社との管理委託契約を解除した可能性が考えられます。賃貸住宅が空室であっても管理委託費用が発生するケースがあります。長期間の空室で管理費用を支払う経営余力がなくなったオーナーが管理委託契約を解除したことで、空室の多いアパートのデータが削除され、結果としてアパートの空室率が急激に改善したと考えられます。

一方で、マンションの空室率のピークは2022年8月で、それ以降、マンションの空室率は改善傾向で推移しています。前篇の図1で示した通り、世帯数の増加幅(需要)が貸家着工数(供給)と同じレベルまで回復したのが2022年8月です。これが東京23区の単身者向け賃貸住宅市場が回復に転ずるターニングポイントであったことがわかります。

図1

図1:東京23区30㎡以下賃貸住宅の空室率推移|日本情報クリエイトCRIXより作成

 
 

平均賃料は上昇傾向で推移

次に平均賃料を確認してみましょう。

空室率が急上昇したのにもかかわらず、平均賃料は上昇傾向で推移しています。この理由として考えられるのは、退去したテナントが支払っていた賃料よりも募集賃料の方が高いこと※2です。入居した新規テナントが支払う賃料の方が高くなることにより、平均支払い賃料が上昇しているのです。

また、平均賃料には空室の部屋の賃料が含まれていないことに注意が必要です。賃料がより低い賃貸住宅が空室となった結果、平均賃料が上昇したという側面があるのです。これは非正規従業員が大きな影響を受けたという経済状況と整合しています。

図2

図2:東京23区30㎡以下賃貸住宅の平均賃料推移|日本情報クリエイトCRIXより作成

 
 

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※1:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/002.pdf

※2:コラム「賃貸住宅「管理データ」に基づく指標と「募集データ」に基づく指標との違い」も参照してください。
https://www.n-create.co.jp/pr/column/rental-management/create_chintai_index_02

 

CRIX(クリエイト賃貸住宅インデックス)とは

CRIX(クリックス:Create Rental housing Index)は、当社が保有する膨大な量の賃貸住宅管理データ(ビッグデータ)より算出した、賃料・空室状況に関するインデックスで、次のような特徴を持っています。

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